なぜ、考えれば考えるほど、心は騒がしくなるのだろう?
開いたままの無数のタブ。
鳴り止まない通知。
終わらないタスクリスト。
私たちは、常に何かを考え、情報を処理することを強いられています。
こんにちは、思考の整理法をお伝えしている黒瀬遼です。
かつて外資系コンサルティング会社に勤めていた頃の私は、「論理的思考こそが最強」だと信じ、思考の速度と量を追い求める日々に没頭していました。
しかし、その先で待っていたのは、燃え尽き症候群という名の突然の沈黙。
プレゼンの最中に、言葉が全く出てこなくなったのです。
頭の中は、まるで嵐のようでした。
たくさんの思考が渦巻いているのに、どれ一つ掴むことができない。
その経験から私は、「速く考える」ことよりも「静かに考える」ことの重要性を痛感しました。
この記事では、そんな私の経験と心理学や認知科学の知見を基に、騒がしい頭の中を鎮め、心に静けさを取り戻すための具体的な「静かな思考トレーニング」を3つご紹介します。
この記事を読み終える頃には、あなたは「考えること」が苦しみではなく、自分と向き合う穏やかな時間になるヒントを得られるはずです。
考えることに疲れたあなたのための、やさしい頭の使い方を一緒に探していきましょう。
合わせて、明日香出版社から出ている「すぐ動けない人のための 思考を放つ100項」という本もおすすめです。
なぜ、あなたの頭はいつも「うるさい」のか?
静かな思考トレーニングを始める前に、まずは私たちの頭がなぜこれほどまでに「うるさい」状態に陥ってしまうのか、その背景を少しだけ覗いてみましょう。
原因を知ることは、自分を責めるのではなく、的確な対策を立てるための第一歩になります。
思考の渋滞を引き起こす「情報過多」という現代病
スマートフォンを開けば、世界中のニュース、友人の近況、無限のエンターテイメントが流れ込んできます。
私たちは、人類史上、最も多くの情報に晒されている世代と言えるでしょう。
脳は優秀なプロセッサーですが、その処理能力には限界があります。
絶え間なく流れ込む情報を処理しようと脳がフル回転を続けることで、思考の交通渋滞が起きてしまうのです。
どれが重要で、どれが不要な情報なのかを判断する余裕もなく、ただただ頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
これが、頭のうるささの大きな原因の一つです。
「もっと考えないと」という完璧主義の罠
「これで本当に大丈夫だろうか」「もっと良い方法があるんじゃないか」
真面目で責任感の強い人ほど、完璧を求めて思考を止められなくなります。
かつての私もそうでしたが、完璧主義は「まだ足りない」という欠乏感と思考を同化させてしまいます。
一つのタスクを終えても、次から次へと改善点や懸念事項が浮かび上がり、脳に休息を与えません。
この「もっと考えなければ」という強迫観念が、自分自身を思考の牢獄に閉じ込めてしまうのです。
脳が休まらない「反芻思考」のメカニズム
過去の失敗を何度も思い出しては後悔したり、未来の不安を繰り返しシミュレーションしたり。
このように、特定のネガティブな思考が頭の中をぐるぐると回り続けてしまう状態を、心理学では「反芻思考」と呼びます。
反芻思考は、問題解決のための「省察」とは異なり、答えの出ない問いを繰り返し続けるため、精神的なエネルギーを消耗させるだけです。
この思考パターンはうつ病とも深い関連があると指摘されており、放置しておくと心の健康を大きく損なう危険性も孕んでいます。
「頭がうるさい」と感じる時、私たちの脳内ではこの反芻思考が起きているケースが非常に多いのです。
今日からできる「静かな思考トレーニング」3選
では、どうすればこの騒がしい頭を静めることができるのでしょうか。
特別な道具も、難しい理論も必要ありません。
ここでは、私が燃え尽き症候群から回復する過程で実際に試し、本当に効果があったと感じる3つのシンプルなトレーニングをご紹介します。
【ステップ1:書き出す】思考の「見える化」で客観視するジャーナリング
頭の中がごちゃごちゃしている時、思考は実体のない幽霊のようなものです。
それらを捕まえる最も簡単な方法が、「書き出す」こと。
「ジャーナリング」や「筆記開示」とも呼ばれるこの方法は、頭に浮かんだことをありのまま紙に書き出すだけのシンプルなトレーニングです。
やり方は簡単です。
1. ノートとペンを用意する(デジタルでも構いませんが、手で書く感覚がおすすめです)
2. タイマーを5分にセットする
3. 時間の限り、頭に浮かんだことをひたすら書き出す
テーマを決める必要はありません。
「何を書けばいいか分からない」と思ったら、「何を書けばいいか分からない」と書けばいいのです。
文法や誤字脱字も一切気にせず、思考を言葉として外に出すことだけに集中します。
かつて言葉を失った私が最初に行ったのも、このジャーナリングでした。
最初は支離滅裂な単語の羅列でしたが、毎日続けるうちに、渦巻く思考の奥に隠れていた「本当は疲れていたんだ」という自分の純粋な感情に気づくことができました。
書き出すことで、思考を客観的に眺められるようになり、自分と思考の間に適切な距離が生まれるのです。
【ステップ2:歩く】身体を動かして思考の流れを整える「思考散歩」
考えが行き詰まった時、デスクにかじりついていても良いアイデアは生まれません。
そんな時は、思い切って立ち上がり、外に出て歩いてみましょう。
スタンフォード大学の研究では、歩いている時は座っている時と比べて、創造性が平均で60%も向上することが示されています。
これは、歩行のようなリズミカルな運動が脳の血流を促進し、普段使わない思考の回路を刺激してくれるからです。
ここでのポイントは、「何かを解決しよう」と意気込まないこと。
1. スマートフォンはポケットかカバンにしまう
2. 目的地を決めず、ただ心地よいペースで歩く
3. 浮かんでくる思考を、空に流れる雲のようにただ眺める
私のアイデアの7割は、この「思考散歩」の時間に生まれます。
歩いていると、固まっていた思考がほぐれ、点と点だったアイデアが自然と線で繋がっていく感覚があります。
これは、身体を動かすことで、論理的な思考を司る脳の働きが少し緩み、直感的で創造的な思考が顔を出しやすくなるからです。
頭の中の騒音を、心地よいBGMに変えるようなトレーニングです。
【ステップ3:問い直す】思考の焦点を変える「たった一つの質問」
頭がうるさい時、私たちの思考は「問題」そのものに縛り付けられています。
「なぜ、うまくいかないんだ?」「どうすれば、この問題を消せるんだ?」
この問いが、さらなる思考のノイズを生み出します。
そこで試してほしいのが、思考の焦点を「問題」から「解決した未来」へとシフトさせる、たった一つの質問です。
これは、心理療法の一つである「解決志向アプローチ」で使われる「ミラクル・クエスチョン」を応用したものです。
「もし、今夜寝ている間に奇跡が起きて、この問題がすべて解決したとしたら。朝、目が覚めた時、何がどう変わっていることで、その奇跡に気づきますか?」
この質問を、自分自身に優しく問いかけてみてください。
いきなり解決策を考えるのではなく、まず「解決した後の状態」を具体的にイメージするのです。
例えば、「朝、すっきりと目が覚める」「上司に臆することなく意見を言えている」「穏やかな気持ちでコーヒーを飲んでいる」など、どんな些細なことでも構いません。
この質問の目的は、正解を出すことではありません。
「問題」に集中していた思考のエネルギーを、「望ましい状態」へと方向転換させることです。
私の信条は「正解よりも、納得を。」です。
この問いは、あなた自身が本当に望んでいる「納得できる状態」を、そっと教えてくれる道しるべになるでしょう。
「静かな思考」を習慣にするための小さなコツ
ご紹介した3つのトレーニングは、一度だけでなく、日常生活に組み込むことでさらに大きな効果を発揮します。
最後に、「静かな思考」をあなたの新しい習慣にするための、いくつかの小さなコツをお伝えします。
朝の5分を「思考の聖域」にする
一日は、朝の過ごし方で決まります。
起きてすぐにスマートフォンを手に取るのではなく、最初の5分間をジャーナリングの時間にあててみてください。
まだ誰にも邪魔されない静かな時間に頭の中をクリアにすることで、その日一日を穏やかな心でスタートさせることができます。
「考えない時間」を意図的にスケジュールする
私たちは「考える時間」は作りますが、「考えない時間」は意識しないと作れません。
カレンダーに「15分の散歩」や「何もしない時間」といった予定を書き込んでみてください。
思考を意図的にオフにする時間を作ることで、脳は休息を取り、再びクリアな思考を取り戻すことができます。
他人の思考ではなく、自分の感覚を信じる練習
SNSやニュースは、いわば「他人の思考」の洪水です。
時にはデジタルデバイスから離れ、自分の身体感覚や感情に意識を向ける時間も大切です。
「今、自分は何を感じているだろう?」と問いかける。
熱いコーヒーの香り、窓から入る風の心地よさ、そうした自分の内側から湧き上がる感覚こそが、思考のノイズからあなたを解放してくれる静かなアンカーになります。
まとめ
今回は、騒がしい頭を鎮め、心に静けさを取り戻すための「静かな思考トレーニング」についてお話しました。
最後に、この記事の要点を振り返っておきましょう。
- 頭がうるさくなる原因は、情報過多、完璧主義、そして答えの出ない問いを繰り返す「反芻思考」にあります。
 - 静かな思考トレーニング①「ジャーナリング」は、頭の中を書き出して客観視することで、思考との間に距離を作る方法です。
 - 静かな思考トレーニング②「思考散歩」は、身体を動かすことで思考の流れを整え、創造性を高める効果があります。
 - 静かな思考トレーニング③「たった一つの質問」は、思考の焦点を問題から「解決した未来」へと移すことで、新たな視点を与えてくれます。
 - 習慣化のコツは、朝の5分から始め、意図的に「考えない時間」を作り、自分の感覚を大切にすることです。
 
「考える」ことは、本来、私たちを豊かにしてくれる創造的な営みのはずです。
それが苦しみになっているとしたら、少しだけ使い方を変えてみるサインなのかもしれません。
考えるとは、静かに自分を覗き込むこと。
もし今、あなたの頭が様々な思考で騒がしいのなら、まずは5分だけ、ペンを手に取って頭の中を書き出すことから始めてみませんか?
その紙の上に、あなたはどんな自分の声を見つけるでしょうか。
あなたは、何を“考えすぎて”いますか?
        
